吃音:親を恨むこころは・・・(たびたび再掲載:初掲載は2013年6月20日)

 どもりについて、子供の頃から親にも理解されずにひとりで悩んでいた私は、高校のころになると、いま思うと、明らかにうつ病の症状でした。
 その後大卒後も就職できず(せずに)に、いままでの無理がたたったのか急に力が抜けたように約2年間引きこもりました。
 その後、少し元気が出始めたころ、なんとか通うことができた民間のどもり矯正所において、はじめて、どもりという同じ悩みを持つ友を持つことができました。

 人生ではじめて、家族にも友達にも話すことのできなかった「どもりの悩み」を心ゆくまで話し合えるようになった(友を持った)ときの開放感は、ことばでは表現できるものではありません。
 自分のこころのなかには、どもりに対する想いがこんなに多く詰まっていたのかと驚いたものです。
 また、こどもの頃からどもりに関する想いを無理やり自分のこころのなかに押し込んできたことが、自分のこころとからだに大きな悪影響を与えてきたことをあらためて実感し、確信し、これからも影響を与え続けるだろうことを予感しました。
*10年ほど前に吃音者の会合で、50歳代の女性(客観的に見るとかなり軽い吃音)が、人生ではじめて自分のどもりについて話せた!と号泣していたことを思い出します。

 その中のひとつが、「こどもの頃からこころのなかに押し込んできた想い」
・・・「親に対する根深い恨み」でした。

 どもりの悩みは人それぞれですが、いろいろな吃音者に接するうちに、それなりの割合で「親に対する恨みの感情を持っている人」に会いました。

★こどもの頃、どもることで学校でも笑われたり、からかわれたり、いじめられたりしていたのに、そして、それを親に訴えたのに相手にされなかった

★それどころか「どもりくらいたいしたことはない、もっと苦労している人はたくさんいる」と説教をされてしまった。

 「家族にすら理解されずにどもりの苦しみのなかで生きてきた話」を仲間から聞きました。なかには話しながら泣き出してしまう方もいらっしゃいました。

 こどもの頃からいままで、自分のこころのなかだけで持っていて誰にも言えなかった感情が、共感をもって聞いてくれる人の前で話すことによりあふれ出てしまったのでしょう。
*このブログにも、子供の頃からのどもりを理解してくれなかった(むしろ厳しい意見を言ってきた)親に対する根深い恨みを訴える、40歳代~50歳代の方のコメントがいくつか寄せられています。(個人的な内容なのでほとんどが非公開で直接メールでのやりとりとしています。)

少し冷静になって背景を考えてみます。
★親はどもりのことが分からない?
 こどもの多くは、自分のどもりを知られたくないので、家庭のなかでさえも極力隠そうとします。
 特に、言いにくいことばは言わないようにします。会話も最低限のものにします。
ことばの調子の良いときにだけ話すようにすれば、親からは「だいぶ軽くなったね、良かったね!」などと頭をなでられるかもしれません。

 しかし、これでは親は、自分の子供がどもりで悩んでいることをしっかりと把握できません。
*学校でいじめられているにもかかわらず、家ではそのそぶりさえ見せないで、ある日突然自殺してしまうことに似ているかもしれません。

 ここで考えなければいけないこと・・・
★世の中にはどもりに対する正確な情報がほとんどないし(ネット上、世間話ともに)、どもりのことで気軽に相談に行けるこころやことばの専門家のいる公的な専門機関も(ほとんど)ない。 これが致命的かも知れません。
 せめて、住んでいる街のなかに(日常的に気軽に通える範囲に)、一カ所でも良いから吃音に関心を持って取り組んでいる臨床心理士、言語聴覚士などが常駐している施設があれば、状況はだいぶ変わってくるはずです。
*学校の通級教室である「言葉の教室」も、その量・質ともに問題がかなり多いようです。

 親を憎んでいる場合はどうすれば良いか?
★同じどもりを持つ友人(親友)を、ひとりで良いので作り、いままでのことなどを打ち明けることにより、こころの中にある負荷を下げていく。
★どもりのセルフヘルプグループの会合に参加して、いろいろな立場(性別、年齢、育った環境の違いなど)の吃音者に接することにより、自分を俯瞰できるようにする。
★自分の「いま」や「これから」を充実していくことにより、過去にとらわれない(とらわれにくい)ような状況に自分を持っていく。(生き直し)

 なんと言っても、自分のことをこぼせる信頼できる友人を(ひとりで良いので)作ることが第一だと思います。
*なんでも話せるホームドクターとしての精神科医や臨床心理士を持つことも良いことです。(どもりで極度に悩んでいてどうにかなってしまいそう、でも、相談相手は誰もいないという場合には、まずはこちらにかかり、少し落ち着いてからどもりのセルフヘルプグループに参加して仲間を作ることが良いと思います。)

吃音:理解してもらえない人たちのなかで自分(の人生を)を見失わないためには(たびたび再掲載:初掲載は2014年12月23日)

 どもり、それも日常のコミュニケーションに支障が出るような重さや症状のどもりか、傍から見て気づかないくらいの軽いどもりでも自分として深く悩んでいる場合は・・・、(どもりでない人にはなかなか理解できないことですが)一年中、24時間が辛い人生かもしれません。

*私の場合は、小学生(3年生くらいかな)の頃から、発表時や教科書を読まされるときの恐怖から、少しの間だけでも逃れられる時間帯である週末や夏休みなどの長期の休みは心が安まりました。(家ではしゃべらなくても良いからです。しかし明日は学校のある日曜の夜や長期の休みの最後の日はとても辛い時間でした)
就職してからは(特に自分の名前よりも言いやすい会社名の職場にいたときは)あえて休日出勤してでも仕事の電話をして言葉の調子を整えていました

 さて、私もそうで、このブログにコメントを寄せていただく方の多くもそうなのですが・・・、
子供の頃からのどもることによる様々な悩みを、いちばん身近にいて理解してくれていても良さそうな家族(配偶者、親・兄弟、祖父母)が、実はいちばん分かってくれていないことが多い、ということについて考えます。

 生活の基盤である家庭において、どもりの苦しさを家族に理解してもらえていないことによるストレスはたいへんなものです。

 特に子供のうちは、そのストレスが(今後の)人生に与える悪影響は大きなものがあるでしょう。

 自分の努力の外にある「どもる」ということ。
 日常の簡単な挨拶から、様々な場面で自分の名前を言うこと、授業中に指名されて教科書を読むこと、指名されて質問に答えること、など、日常、当たり前のように繰り返されることができないかできにくいという「どもりという言語障害」の性質を考えるときに、
まじめに努力しようとしている人ほどそのこころは腐りやすく、生きる力をなえさせるのではないでしょうか。

「下手な治す努力」は、吃音者をかえって落ち込ませます。
 
 戦後(一部は戦前から)から90年代前半くらいまで連綿と続いてきた民間の無資格どもり矯正所で行われていた方法などはその良い例です。

 いっぽう、どもり矯正所は、そこでの「訓練」よりも、同じ悩みを持った多くの仲間と人生ではじめて出会えて、こころのなかをなんのためらいもなく語り合えるという意味では「結果的にですが」大きな意味がありました。

 しかし、費用が高すぎるのと、そこで治った良くなったと称する一部の人がサクラ的に介在して、高い費用を払って遠方からきた悩める吃音者の多くを結果的に落胆させてしまったという大きな問題点がありました。(どもり矯正所の功罪については何回か書いています。)
*いまでは、同じ悩みを持った人と出会えるのはどもりのセルフヘルプグループがその役割を果たしています。

 残念ながらいまでも、どもりを持つ子供や大人を取り巻く環境は大きく変わっていません。
 街なかには、どもりで悩んでいる人が日常的に気軽に通えるような・・・、
「どもりに精通した言語聴覚士や臨床心理士、精神科医などがかかわり、どもることによる生きずらさをサポートするソーシャルワーカーなども関わってくれる」
言語クリニックなどは存在しません。
*たとえ日本に数カ所あったとしても、日常的美通える範囲にないと、それはないのと同じことです。

 こんな環境のなかで我々吃音者ができること。
★子供の場合は、学校(小中学校)の通級教室である「ことばの教室」のサービスですが、しっかりと受けられているでしょうか?

 そこではどもりに精通した専門家の指導が継続的に受けられていているでしょうか?
 子供本人ははもちろん親御さんもしっかりとしたカウンセリングや相談が受けられる体制になっていますか? チェックしてください。

★まずは、セルフヘルプグループなどを利用して、どもりについてなんでも話し合える自分のことを話せる友人を作ることです。
 そして、必要に応じて彼らと小グループを作りいろいろと動いてみることでいろいろと見えてくるものがあります。
 こども(小・中・高校)の場合は、セルフヘルプグループが主催するこども向けの集まり等を利用して同じ悩みを持つ友人を作ることができますし、親御さんも交流できるでしょう。

★どもりで悩んでいる自分のこころが危機に陥らないように(うつ病などのこころの病気や、不登校や引きこもりにならないように)、危機管理のために、ホームドクター的な精神科医や臨床心理士、(言語聴覚士)を見つけて日常的にカウンセリングを受け心の健康を保つことができます。

★家庭内や学校・職場の人間関係に問題がある場合(どもりによるいじめ、からかい、パワハラ)は、年齢や立場に応じて、児童相談所、公的な相談の電話、弁護士会、法テラス、役所のソーシャルワーカーなどを利用して問題の解決を図ることができます。

 工夫して、少しづつで良いので良い方向に向かうようにがんばっていきましょう。