吃音の克服-文明社会のなかの言語障害
出版社:新書館
フレデリック P.マレー(著)、田口 恒夫、岡部 克己(訳)
このブログの「おすすめの本」で紹介しているこの本は、子供の頃から重症の吃音を経験され、その後各大学に学ばれて、ニューハンプシャー大学の言語病理学の教授になられたアメリカ人の半生の記です。
この本には子供の頃より重症のどもりで苦労された著者の心情の変化が率直に書かれています。
邦題は「吃音の克服」ですが、原題(A STUTTER’S STORY)のほうが、本の内容をよく表しているように思います。
青年期以降には言語病理学をこころざし各大学で学び、どもり専門の言語病理学教授になるのですが、偏りのない、そして、専門家でなくてもわかる平易な文章で書かれたこの本は、どもりのお子さんを持つ親御さんや、いまどもりで悩んでいる方々に是非読んでいただきたい一冊です。
著者は、この本が書かれた時点(1985年)ではニューハンプシャー大学の言語病理学教授で、どもりを専門に研究されてきた方です。(2013年現在では80歳代後半になられるはず)
私は、二十数年前に初めてこの本を読んだ時には、一気に読んでしまうほど興奮しました。
さて、著者が子供のころと言えば、1930年代です。
*アメリカでは、すでにアイオワ大学でどもりの研究が活発に行われていました、(日本では巷に腹式呼吸による民間矯正所があったはずです)、そんな時代の話です。
そのころからすで街には言語クリニックが存在し治療費を払って通っていたフレデリック少年が出てきます。治療法は、精神分析的な療法、直接の言語療法、です。
言語障害や心理学を学んでいる学生を自宅にまで招いて治療している様子も描かれており、両親もかなり心配していたことがうかがわれます。
*家庭は比較的裕福でどもりにはかなり神経質になっており、吃音をおおらかに受け止めるというよりもどもりはよくないものという受け止め方のようです。
その後もいろいろと試してはみるもののどもりの症状はいっこうに改善されず、一時的に良くなったかと思えば、なにかのきっかけで(またはきっかけもなしに)重症のどもりがぶり返すのは、よくあるパターンですね。
その後スタンフォード大学やアイオワ大学など複数の大学で学び吃音を専門とする言語病理学者になりますが、彼がこの本で結論的に言っているのは、「吃音は器質的な基盤があると思う」ということです。
どもりを持っている方で知的好奇心の強い方は、ご自分で内外の言語病理学関連の書籍をあさったりするでしょうが、現在はネットでも容易に検索される、大脳半球優位説やDAF(聴覚遅延フィードバック)の理論は、20世紀の前半か中頃からすでに盛んに研究されていることがこの本を読むだけでもわかります。
皆さんもぜひ読んでみてください。