吃音で学校をやめる、会社をやめるという選択はアリか? (再掲載一部改編:初掲載は2012年12月4日)

 (ある程度よりも重い)どもりのために学業や仕事に支障が出てきて「学校をやめる・やめたい」「会社を辞める・辞めたい」ということになることは、吃音者の間では良く聞かれることです。
*80年代末に大卒後も就職できずに民間のどもり矯正所に通っていた私の経験ですが、同じ矯正所に通っていた大学生や専門学校生が中途でやめるのを見るたびに、とても残念に、また、悔しく思ったものです。
*「ある程度よりも重い」ということについてですが、「どもりのほんとうの重さ」は客観的にみた重さや症状だけではわかりません。傍から見てほとんど気がつかないようなどもりでも、本人としては大変な生きづらさを感じていて自殺さえ意識しているところまで追い込まれている場合さえあります。
また、「どもり」どころか、むしろ雄弁にさえ見える人が、特定の語、たとえば自分の名前を言おうとすると、どうしても大きくどもってしまいうまく言えない・なかなかことばが出てこないということも良くあることです。この場合も生きていくうえには(特に事務系・営業系、その他接客するような社会人としては)かなりつらい・生きづらいこととなります。

 さて、吃音者本人から「学校をやめたい、会社を辞めたい」と聞かされた家族はたいていは猛反対します。「なんでやめるんだ!」という話しとなります。
 一生懸命に、「どもりで苦しんでいる」と説明したとしても、たいていは、「その程度のことでやめるとは何事だ!」と怒られるでしょう。
 残念なことですが、家族でさえも、どもりという障害についての認識はその程度です。

 私が大卒後に就職できずに民間の無資格どもり矯正所に通っていた80年代末ごろは、どもるために学校をやめたといっても多くは専門学校や大学だったように思いますが、今はどうなのでしょうか?
 昔とは明らかにちがう陰湿ないじめにより、「不登校」そして「引きこもり」にまで至っているどもりを持った子供は多いのではないでしょうか?
*そのような調査はないので推し量るしかありません。

 たとえそのような例があったとしても、学校側が十分にサポートしているかといえば、はなはだお寒いのが実態ではないのでしょうか?
*どもりに精通していない人が中途半端なアドバイスをすれば、かえって状況が悪化することさえあります。

 社会人の場合では・・・、
 現在の「ことば(どもり)の状態」で入れるところ(職種)に就職せずに、いわゆる「コネ」で就職した場合ですが・・・、
話すことの能力が低いのに(自分のどもりの重さと職場で要求される話し言葉によるコミュニケーション能力の差という意味です)企業の営業系や事務系に入ってしまった場合には、それはもう悲劇です。

 コネ(特に有力者)で入った場合には会社側もなかなか文句が言えませんので、本人そして会社側にとって二重の悲劇になりかねません。
たとえ実力で入ったとしても、面接時に比較的言葉の調子が良くて運良く(運悪く)入った場合には、入ってからの苦労がたいへんなものとなります。

 しかし、どもりの症状や重さも時とともに複雑に変化しますし、また、吃音者を取り巻くまわり(職場・家庭)の状況も刻々と変わってきますから一概には言えません。

 「うまくいった例」を持って「〇〇さんはどもりを持っていながらも歯を食いしばって頑張った、だから〇〇になれた。あなたもがんばれるはずだ!」などということは、いまどもりで困っている人をさらに追い詰めるだけになりかねません。

 いまの就職・社会状況を考えたときに、学校においても、職場においても、吃音者にとってはかなり生きづらい毎日を過ごしていることと思います。
*私が社会時出た80年代末とは明らかに違います。

 特に、「学校や職場で陰湿ないじめにあっていて有効な解決法がない場合」には、精神的に追い込まれて引きこもったり、自殺を考えるなどということにならないように、
 また、「自分のいまのことばの能力」で、「いまの環境」には、努力しても適応できない、生きていけない、自分のこころを追い詰めるだけだと分かった場合には、転校や転職など、環境を変えることを「戦略的」行なうべきです。
*戦略的というのは「とことん追い込まれて突然やめる」というようなことをしないで、次の準備をしつつ自分の決断で良い時期にやめると言うことです。
いまという時代背景を考えると「ただ我慢、我慢でなんとかなる」ということはありません。

 転職・転校などの大きな判断をするには・・・、
★家族のどもりへの最低限の理解があること(子供の場合はもちろん社会人の場合も)
★転職の場合は、しばらくの間無職でいられる蓄えがあるか、または、アルバイトでしのいでいけること(社会人の場合)などの条件が必要です。これはたいへんに重要なことです。

 学校に通っている年齢帯の場合は、学校を辞めてフリースクールという選択肢や、大検という選択肢もあるでしょう。通信制の学校もありますね。
 社会人の場合は、主に体を動かす農林水産業などへの転業、収入は大きく減っても都会から田舎へのアイ・ターンなど大胆な変更も考えるなどの柔軟性も必要でしょう。
*「都会でのサラリーマンがもはや安定職でないこと」は、おわかりのことと思います。

 これらの判断をするために、人生の危機管理のためにも・・・、
 普段からなんでも気軽に相談できるようなアドバイザー(ホームドクター)としての、臨床心理士や精神科医などを見つけておくことが必要です。

 また、これがいちばん重要かもしれませんが、「なんでも話し合える親友」がひとりで良いのでいることが必要です。
*どもりのことを理解し合える親友を得るためにも、どもりのセルフヘルプグループへの参加はとてもよいことです。

 

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