吃音:ポジティブシンキングの効用と限界(再掲載一部改編:初掲載は2008年5月16日)

 私は三省堂や紀伊国屋などの大規模な書店を目的なしに巡るのが好きです。
 書棚には相変わらず、「自己実現」とか、「ポジティブシンキング」というような言葉がおどる自己啓発書が氾濫しています。

 心理学はヨーロッパで生まれ発達したものですが、20世紀の中盤以降アメリカでは、過去を振り返り分析的に自分を見ていくということではなく、今の自分を認めてそこからはじめていこうとする心理学が生まれました。
*東洋の「禅」に通じるものがあります。禅から影響を受けたと公言する方までいます。(そういえば、appleの創業者のひとりの故スティーブン・ポール・ジョブズも禅から大きな影響を受けたようです。)

 私も学生時代からそれらの考え方には共感し、多くのアメリカ発の書籍に触れてきました。
むさぼるように読み、感動し・・・、どもりや家庭内の問題で自殺を考えるほど悩んでいた自分の心が救われました。
*いまではこのジャンルの本を読むことも減りましたが、良書には偏見なく触れるようにしています。

 アメリカでは、著名な精神科医が専門家向けにではなくて一般向けに生き方を説く本を書きベストセラーになっているものが多数存在していて各国語に翻訳されて世界中で売られています。
*日本人の書いた同様な書籍も増えてきました。

 また、精神科医などの専門職ではない違うジャンルのお仕事の方、例えば脚本家やビジネスマンが書いた、生きたかに関する優れた本も多くベストセラーとなっています。

それらの本には・・・
★今までの自分の行動を悔いてみても過去は帰ってこないので、今の自分からはじめることの大切さ。
★目標を持ち努力をすることの大切さ
★人はみな人生を生きる意味を見いだすだけの「使命」がある
 というような、落ち込んでいる人を勇気づけるに十分な言葉がちりばめられています。

 しかし、バブル崩壊を経験した日本、そして、2011年の東日本大震災。
 特に、あの東日本大震災と福島の原発事故に直面した日本人として素直に前向きな発想ばかりはできません。
 何の罪もない人々が突然の不幸に倒れる現実。
一方では、悪知恵が働く人たちが私腹を肥やしている現実・・・。

 どもりについて考えてみても、好きでなったのではない「どもり」のために・・・
★毎日朝から学校の教室で、先生に指名されはしないかとドキドキしながら不安な毎日を送っている人
★職場では、今日も営業で新規顧客を開拓するための厚かましい電話をしなくてはいけないことにひとりで悩んでいる人(比較的軽い吃音者で営業職などに就いている場合)
★そこまでいかなくても職場で電話が鳴る毎にドキドキしているような人(それよりも重い場合)
 にとっては、どうしようもない「落ち込みのスパイラル」から、なかなか抜けられない方が多いのではないでしょうか。

 無理に「今の自分からはじめよう。今までのことは過ぎたこと」などと考えようとしても、そのように思おうとすること自体がストレスになってしまうこともあるのです。(人の心はそんなに単純なものではありません。)

「やり直すことができないとわかっていても過去にこだわり」、「意味がないとわかっていても思い出しては誰かのことを恨んでしまう」、
そして「なかなかそのような現状から抜け出せない情けないと思ってしまう自分」も、今の自分そのものなのです。

 その果てにあるもの、それは「絶望」という言葉で表されるかもしれません。

 しかし、そこまで追い詰められてはじめて見えてくる境地、絶望のドン底に沈んではじめて見えてくる、今まで見たこともないような「クリアーで美しい青空」もあるのです。
 そして、その「真冬のとても寒いが天気の良い日に見ることのできるような青空」から「穏やかな春の青空」へ至る新たな人生の旅が始まるのかもしれません。

 しかし、そのような経験をするにはひとりでは辛すぎます。

 いつも書いていますが、なんでも話せる親友をひとりと、必要以上に落ち込んだり心の病気にならないための、ホームドクターとしての臨床心理士、精神科医などを見つけておくことです。
 どもりのセルフヘルプグループに参加したり、場合によっては自分で作ってみることもとても良いことと思います。

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