吃音者を「自己不一致」に陥らせない(陥らない)こと(再掲載:07年3月以降数回)

 どもる人自身やその人のまわりにいる人ができることのなかでいちばん大切なことは、どもりを持つ人を「自己不一致」の状態に陥らせないようにすること(手助けすること)でしょう。

 どもることは、ときには人に耐え切れないほどの精神的な苦痛を与えます。
 それは、どもりの重さや、まわりにいる人(家族・同僚・同級生など)のどもることへの理解度にもよりますが、
もしかしたら24時間常にどもりのことばかり考えてしまい、しゃべることが怖くて仕方がなくなっているか、また、どもることから派生する様々な出来事により人生を生きていくことがつらい(むしろ死んでしまった方が楽だ!と思う状態)になるうつ状態まで追い詰められているかもしれません。(かつての自分がそうでした。)

 いい加減、歳をとってからならば、良い意味でのあきらめもできてきて、自分なりの妥協もできてくるかもしれませんが、思春期から30代の中ごろまでは、どんなに強がっても心の底では「治したい」し、また、「そのうちに治る」と思いたいし、そのような希望がなければとても生きていられないと思うのはごく当たり前の想いです。

 自分の子供の頃を思い出してみても、親やまわりの人が言ってくれる「大人になれば治るよ」という励ましの言葉を心のそこでは信じていて、「大人になってもどもっている自分の姿」をまったく想定していませんでした。

 「今はどもって、つらくて恥ずかしい思いをしているが、大人になれば皆と同じように普通にしゃべれるようになるんだ!」と自分に言い聞かせていました。(こう思うことで自分の心の平衡をギリギリの線で保っていたような気がします。)

 しかし、これも度が過ぎると、今の自分を生きられなくなります。(自己不一致)

 どんなにつらい現実があろうと、夢の世界に逃げ込んでみても、現実の自分は幸せになるどころかますます追い詰められていきます。いつも自分のなかに違う自分があり、そこに逃げ込むことでしばしの安堵感を得るということは心理的にとても危険なことです。心の病になってしまいます。
 「どもりが治ってから就職しよう。」「どもりさえ治れば就職できる。」「学校の成績が悪いのはどもりのせいだ」・・・・・・これらのことはある意味そのとおりかもしれません。

 どもりのせいでうつ状態になり、苦しくて苦しくてどうしたらよいかわからない、曇りガラスに爪をたててひっかくような毎日をへとへとになりながら生きている人にとって、どもりでさえなかったらスムーズに就職もできたかもしれないし、明るく自由闊達な学校生活も送れたかもしれませんね。・・・・・・・でも、現実の自分はどもっているのです。
 「どもりがなくなった自分を心のなかに作り上げて」それがあるべき自分・本来の自分と考えて、「今現在、実在するどもる自分」を自分自身で否定してみてもよい方向には進むわけがありません。

 どもりが治るまでは・・・・できない、どもりが治ってからなら・・・・が出来ると考えて、今を生きないで、人生を先延ばししてみても、無為に時間を過ごすだけです。つらいですが今のどもる自分で出来ることから動き始めるしかありません。

 理想の自分とは違うかも知れません(自分の能力ではもっと違うことが出来るはずだ!と思うかもしれません)

 でも、バーチャルな自分に軸足を置くのではなくて、今出来ることから始めることが、結果として時間の浪費をせずして自分らしく生きていける最短距離と考えるべきです。

 いろいろと経験された末にどもりの症状がかなり軽くなっている方に出会うことは、セルフヘルプグループなどに参加しているとそれほどまれなことではありません。そのような人たちは、治してから生きはじめたのではなくて、地に足が着いている生き方をはじめてから「結果として」吃音の症状が改善されたのです。

 しかし、ここが重要なのですが、吃音の客観的な症状は、結果として改善される人と、そうでない人がいることも事実です。
何かを成し遂げると必ず症状が軽くなる=そして社会的成功がある、という構図で考えてしまうと、それが、また、自己不一致の原因になってしまいます。

 それらの複雑な事情が背景にあり、民間矯正所の存在、セルフヘルプグループのなかのいろいろな問題、そしてどもりを専門にする言語障害の専門家の質的、量的不足を招いています。

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